オフィスの夜更けは、寒かった。いやいや、ひとつの意味で。ふつうの方の意味で。
椅子でうとうとしかけたが、寒くて眠れない。暖房をつけると、大して暖かくもない風が吹き付けてくるので逆に寒いのだ。
ちゃんと寝ようと、広大な空きスペースに置かれた長椅子に寝床を定める。ちょっとふかふかしているのだが、いかんせん掛けるものがない。社員達の涙と汗のしみこんだ寝袋は饐えた香りを醸しだしているし、ここのところの小春日和に浮かれて羽織ってきたジャケットはあまりに薄い。しかたなく、そのまま眠りに就いた。寒いなあ…。
案の定、明け方、あまりの寒さに目を覚ましてしまった。しかし、ここで俺は大いなる発見でその危機を乗り越えたのだった。
うつぶせにねるとあったかいよ!!
まるで子供が書いたような下手な字で、平仮名だけが使われていた。字は強い筆圧で書かれており、遭難者の書いた字体とは明らかに違っている。
…じゃなくて、乗り越えたんだって!