ついに、自転車を買った。生活を豊かにするには、身の回りの行動範囲を広げるのが第一歩となる。幸い、西荻や吉祥寺には趣向を凝らした店がたくさんあるので、あちこち回るのが楽しみだ。
まず、駅前の商店街に向かった。あれ。この辺にあったと思うんだが、ないな。もっと奥だっけ?とか言ってるうちに、ぐるっと数百メートルくらい歩いており、いつのまにか家の近くに戻ってきてしまった。僕は、歩くのはまったく苦にならず、むしろ大またで早歩きしたり、線を踏んだらだめ、とか決めて歩いたり、そのルールを途中で都合よく変更したりするのが好きなのだ。道を間違えても、そのまま進んだらおもしろい所を発見するかもしれないじゃないか。無駄足を無駄と思うのは無駄なことだ。
さて、街の自転車屋が見つからないとなると、一度行ってみようと思っていた、あの店を覗いてみよう。小径車や折り畳みで全国的にも有名な、噂の「和田サイクル」である。青梅街道に出て少し歩くと、八丁の停留所のあたりでついに発見。だが!敷居が高すぎた。自転車屋と言ったら、店頭には客寄せで1万円から2万円の安いのを置くのが普通なのに、いきなり50万とか25万ですよ。中はごちゃごちゃでどうやって入ればいいのかわからないし、なじみの客っぽい年配の人や、流線型のヘルメットの人が、店員と専門用語をバシバシ交わしている。僕は品定めしているようなふりをして、人から話しかけられそうになるや、優雅なステップで踵を返し、悠然と引き上げた。
来た道を戻り、着いたのは、結局家からいちばん近い自転車屋の軒先だった。店長が気さくだったので、いろいろ相談の結果、青い、サスペンション付きの自転車に決めた。ああ、これだよ、これなら俺も乗れそうだよ。
型落ちということで少しまけてもらい、3万ちょい。が、いきなり手持ちの残りが1,800円くらいになってしまう。払った後でレジの脇を見たら、クレジットカードもデビットカードも使えたんだね。でも、この前自転車に乗っていたころはいつもお金に飢えてた気がするので、やっぱりカードにしてくださいとか言わず、コンビニでお金をおろしたりもせず、少し昔の気分に浸ってみることにした。思案している間、店長は丁寧に、俺の自転車をすみからすみまで拭いてくれていた。その愛買った!イイネ!
自転車を受け取ったら、さっきの商店街までひとっ走りして、本屋で地図を買った。僕は車には乗らないし道路に興味もないので、まるでこのあたりの地理に疎いのだ。本によると、どうやらバス通りに沿っていくのが吉祥寺への近道とわかった。つか、これだけなら立ち読みで十分だったよ。